2022年の年明けから約1か月にわたってカメルーンで行われた、アフリカネーションズカップ2021が幕を閉じました。優勝したのはセネガルで、最もタレント力のあるチームが順当にアフリカチャンピオンに輝きました。準優勝に終わったエジプトは、モハメド・サラーを擁していますが、下馬評はそれほど高くありませんでした。決勝トーナメントでは強豪チームに打ち勝って決勝まで駒を進めました。
今回の記事では、モハメド・サラーとサディオ・マネというリバプールの2大エースが顔を合わせることとなった決勝戦について振り返っていきます。
アフリカネーションズカップ2021 総括
大会前から優勝候補筆頭と目されてきたセネガル代表の優勝で幕を閉じた今大会でしたが、優勝候補のチームが早々に姿を消すなど、波乱も多くありました。下記の記事は、アフリカネーションズカップ2021が開幕する前に、優勝候補などを考察した記事です。
決勝戦はセネガルとエジプトの顔合わせとなりましたが、両チームともに注目チームとして取り上げていました。セネガルはやはりタレント力でズバ抜けており、順当な勝ち上がりを見せました。決勝トーナメントでは対戦相手に恵まれた感もありますが、しかりと90分で決着をつけ、危なげない勝ち上がり方でした。
一方のエジプトは、大会前から注目チームとは見ていましたが、セネガルほどタレントが揃ったチームではありませんでした。しかし、他の優勝候補だったモロッコ代表や開催国のカメルーン代表に競り勝ち、決勝まで勝ち進みました。セネガル相手の決勝戦もPK戦までもつれ、最後まで勝負強さを示したチームでした。
決勝戦は大会前から注目していた2チームの顔合わせとなりましたが、波乱も多くありました。前回王者として臨んだアルジェリア代表が、グループリーグで1勝もできずに大会を去ったのは、サプライズでしょう。コートジボワール、赤道ギニアに敗れ、シエラレオネに引き分けてグループリーグで敗退しています。その他にも、アフリカの強豪国の一つであるガーナ代表もグループリーグを1分2敗で終え、大会を去っています。
他にも、チュニジア、モロッコ、ナイジェリアと言ったチームは、優勝候補として注目していました。3チームともにグループリーグは順調に突破しています。決勝トーナメント1回戦で、チュニジアがナイジェリアに勝利し、ナイジェリアを敗退に追い込みました。しかし、続く準々決勝でチュニジアは格下であるブルキナファソに敗れています。
元日本代表監督のハリルホジッチが率いるモロッコ代表は、準々決勝まで順調に勝ち上がりましたが、延長戦の末にエジプトに敗れています。タレント力ではモロッコ代表の方が上かと思いますが、エジプトが勝負強さを発揮した試合となりました。
エジプト代表 決勝までの戦い
決勝までたどり着いたエジプト代表でしたが、その道のりは非常に困難なものでした。以下がエジプト代表の決勝までの試合結果です。
エジプト代表は今大会を黒星でスタートしています。グループリーグの初戦でナイジェリアと対戦し、敗れました。ナイジェリアも優勝候補の一角で、非常に競争力の高いチームです。しかし、続く2戦を1-0で勝ち切り、決勝トーナメント進出を決めています。
エジプト代表は、決勝トーナメントでの戦いが非常に厳しいものとなりました。エジプトは決勝を含めた決勝トーナメントの全てのゲームで120分間闘っています。また、コートジボワール、モロッコ、カメルーンと対戦相手も強豪ばかりでした。そんな中、コートジボワールとカメルーンにはPKで勝利し、モロッコには延長戦で勝利するという勝負強さを発揮しました。
決勝のセネガル戦こそPKで敗れましたが、カルロス・ケイロス監督のチームは非常に組織的な守備と、サラーを中心としたカウンターを武器とする良いチームでした。
Embed from Getty Imagesセネガル代表 決勝までの戦い
続いてセネガル代表の決勝までの道のりを振り返ります。エジプトと同様に、試合結果を以下にまとめています。
セネガルもグループリーグではスロースタートでした。初戦のジンバブエ戦には勝利したものの、続くギニアとマラウイにはスコアレスで引き分けています。グループを首位で通過こそしましたが、1勝しかできず、得点もわずかに1という結果でした。ジンバブエ戦の1得点も、マネのPKからのゴールであり、得点力不足という課題が見られました。
しかし、決勝トーナメントに入ってからのセネガルはしっかりと得点を積み重ねます。エジプトと比較すると、対戦相手に恵まれた感もありますが、3試合で8得点と、ゴールも生まれるようになりました。
カーボベルデ、赤道ギニア、ブルキナファソを順に、いずれも90分で撃破し、決勝に進みました。いずれも格下と呼べる対戦相手で、FIFAランキングではセネガルの20位に対して、カーボベルデが73位、赤道ギニアが114位、ブルキナファソが60位でした(2021年12月時点)。格下相手とは言え何が起きるかわからない一発勝負の舞台ですが、セネガルは安定した戦い方で勝利を積み重ねました。
ゲーム考察
そんなセネガルとエジプトの対戦となった決勝戦ですが、120分間をスコアレスで終え、PK戦の末にセネガルが勝利しています。ここからは決勝戦の内容について考察していきます。決勝戦のフルマッチは、アフリカサッカー連盟の公式YouTubeから視聴可能です。
この試合の両チームのスターティングイレブンは以下の通りとなりました。両チームともベースとなるフォーメーションは4-3-3です。
セネガル代表の基本戦術
セネガル代表は、欧州のビッグクラブでプレーする選手が非常に多いタレント軍団です。ボールを持てる選手も多く、ボールを握る試合展開を目指していました。センターバックを務める、クリバリとディアロの2選手を中心に、ボールを持つとまずは後方でボールポゼッションを安定させます。
後方でのポゼッションを確保すると、前線に人数を送り込みます。長身のMFクヤテが前線へと進出し、両サイドバックも高い位置をとることで、エジプトのディフェンスラインをくぎ付けにします。最前線で数的同数、もしくは数的有利な状況を作ることで、一気の攻めを見せつつ、クヤテが上がってスペースの空いた中盤をうまく活用することを狙いとしていました。
ナンパリス・メンディ、ゲイェの2人選手が中盤でボールを受け、前線にボールを持ち出すシーンは多く見られました。また、前線のマネが中盤の空いたスペースに落ちてきてビルドアップを助ける役割も果たしていました。
セネガル代表でのマネは、攻撃の中心として幅広い役割をこなします。スタート位置は左サイドのウィングですが、中央でのプレーも多くなります。戦術のビルドアップのように、中盤に降りてはビルドアップを助けますし、サイドでのドリブル突破や、チャンスメイクという役割も担っていました。まさにセネガルのエースというところでしょう。
Embed from Getty Imagesボールを保持する時間が長かったセネガルですが、守備も非常に強固です。守備時は、ゲーゲンプレスやハイプレスはあまり強く仕掛けず、ラインを低めに保つ守備をベースとします。マネを前線に出し、ゲィェとイスマイラ・サールが両サイドを担当する4-4-2で守備を固めていました。
ディフェンスラインの選手は非常に対人守備に優れており、エジプトの攻撃を跳ね返します。特にエジプトはロングボールやカウンターを多用するチームですが、クリバリとディアロを中心に、跳ね返し続けていました。中盤のナンパリス・メンディとゲイェも機動力に優れ、ボールハントを得意とする選手ですので、セカンドボールの回収も非常に効率的でした。攻守に強力なタレントを抱えているのが、今大会のセネガル代表でした。
エジプト代表の基本戦術
セネガルに対してタレント力では劣るエジプトは、試合の主導権を渡す時間帯が長くなります。しかし、決勝までの道のりでも何度も見せた、粘り強く、組織的な守備とサラーを中心としたカウンターでチャンスを生み出していました。
エジプト代表のベースとなるフォーメーションは4-3-3ですが、セネガルがボールを握る時間帯は、サラーを前線に残した4-4-2でブロックを敷きます。ラインを低く設定し、ゴール前で体を張ることで、セネガルの攻撃陣にフィニッシュの機会を容易に与えません。
自陣でボールを奪った際には、リスクを取らないことが基本路線です。ボールを繋いで保持することが難しい状況では、前線やサイドへ大きくボールを蹴り出して逃れることも辞さないチームでした。自陣でボールを失うリスクを最小限に留め、失点しないことに重きを置くチームでした。
自陣でボール保持を確立した局面でも、じっくりとビルドアップは行わずに、素早く縦にボールを運ぶことを優先します。セネガルの前線があまりプレスに来ない時でも、チャンスがあれば前線にロングボールを供給していました。
エジプトがロングボールを厭わず、前線に素早くボールを運ぶことを重視していたのは、サラーの能力を最大限活かすためでしょう。エジプト代表において、モハメド・サラーはやはり絶対的な存在でした。前線で相手を背負ってボールを収め、攻撃の起点になることもできますし、前を向けばチャンスメイクも可能です。時にはドリブルで仕掛け、複数の相手に囲まれながらも、可能性を感じるシュートを放っていました。決勝戦でもサラーはセネガルの脅威になり続けており、エジプトの攻撃はサラーを中心に構築されていました。
Embed from Getty Images決勝戦の総括
試合の流れとしては、セネガルがボールを握ってエジプトを押し込む時間が続きました。しかし、エジプトもしっかりとディフェンスラインを固め、ゴール前でセネガルの攻撃を凌ぎ続けます。時にはサラーを中心とした鋭い攻撃でセネガルゴールに迫るシーンもありました。
セネガルとしては、ゴールを奪いたかったシーンがいくつかありました。最も大きな決定機は、前半7分に訪れたPKでしょう。しかし、マネのPKはエジプトのGK、アブガバルにストップされます。
その後は試合時間が経過し、後半になるにつれて選手の闘志も高まってきます。このような大舞台では、戦術よりも精神的な部分が非常に重要になってくることでしょう。お互いに譲らず、延長を含めた120分間で決着がつかず、PK戦へ突入しました。
決勝トーナメントでは、コートジボワールとカメルーンをPKで下してきたエジプトですが、この試合では2人目のキッカーを務めたアブデル・モネイム、4人目のラシーンが失敗しました。それに対し、セネガルは4人中3人が成功。決めれば勝利というシーンで5人目のキッカーを務めたのは、前半にPKを失敗しているマネでした。ここではきっちりとゴールを決め、セネガルに初となるアフリカネーションズカップのタイトルをもたらしました。
Embed from Getty Imagesまとめ
アフリカ随一のタレントを備え、優勝候補筆頭だったセネガルの優勝で幕を閉じたアフリカネーションズカップ2021。しかし、エジプトの健闘も非常に光るものがありました。決勝トーナメントでは、強豪国を死闘の末に破り、決勝の舞台までたどり着きました。
リバプールではチームメイトである、モハメド・サラーとサディオ・マネがこのような大舞台で相まみえるというのも、リバプールファンとしては非常に胸が熱い展開でした。試合後、涙を流すサラーにマネが声を掛けていたシーンは胸を打つものがありました。
アフリカネーションズカップ決勝では、セネガルの勝利となりましたが、この両チームはまたすぐに大舞台で激突します。カタールワールドカップ行きを賭けた、アフリカの最終予選での対戦が決まっています。勝利したチームがカタールに行くことができるという大一番、セネガルとエジプトの両者にとって非常に重要なゲームです。