【南野vs富安】リバプール-アーセナル分析 ハマらなかったアーセナルのプレス 

 プレミアリーグ第12節、リバプールはホームにアーセナルを迎えました。勝点2差でリバプールを追っていたアーセナル。勝てば順位が入れ替わる、非常に重要な一戦でした。結果は4-0でリバプールの快勝。リバプールとしては、代表ウィーク前のリーグ戦は2試合で1分1敗と停滞気味だったため、流れを変える良い勝利となりました。以下、この試合のスターティングイレブンです。

南野と富安の日本人対決

 日本人ファンとしてのこの試合の注目ポイントの一つは、両チームに日本人選手が在籍していたことでしょう。富安は今夏にアーセナルに加入し、安定したプレーで高い評価を得ていました。実際、富安が加入してからのアーセナルは、リーグ戦8試合無敗と好調でした。

 一方のリバプールの南野は、加入以来なかなか出番を得られていません。今季もリーグ戦は終了間際の途中出場が少しあった程度。リーグカップには出場し、結果も残しているものの、重宝されているとは言えない形になっています。

 この試合でも、富安はスタメンに名を連ね、南野はベンチからのスタートでした。富安は対人守備と球出しの部分で長所を発揮していたのではないでしょうか。アーセナルがチームとして前がかりになることを選んだため、マネやツィミカスとのデュエルに晒されました。しかし、デュエルでは後れを取ることはなく、守備面での役目を果たしていました。

 また、ビルドアップ時に、安定してボールを前の選手に預けられるのも長所でしょう。この試合でも、サカに質の高い縦パスを入れ、チームのビルドアップを助けるシーンが散見されました。

 一方の南野は、この試合でチャンスを掴みます。76分にピッチに入ると、すぐさまゴール。チーム4点目となった得点は、南野にとってもアンフィールド初ゴール。チームメイトにも温かく祝福されており、非常に微笑ましい光景でした。

序盤の積極的なプレスは良かったアーセナル

 試合の内容としては、アーセナルが積極的に前に出る展開で幕を開けました。立ち上がりから前に出て、リバプールのディフェンスラインにプレッシャーをかけます。リバプールはボールの保持を目指しますが、アーセナルの激しいプレスと、自陣に引いても堅いブロックを崩せず、なかなかチャンスを作り出せない序盤でした。しかし、時間を追うごとにリバプールの攻撃が効果的になり始め、結果的に得点を積み重ねることができました。

 アーセナルはリスクを負って前からプレスを行う選択をしたわけですが、リバプール相手に効果を発揮することはできませんでした。しかし、特に前半の立ち上がりはリバプールに迷いを与えていたことも事実です。なぜアーセナルの守備は前半の終わりごろから機能しなくなったのでしょうか?

マンツーマンで前に出たアーセナルのプレス

 ここからは、アーセナルのアグレッシブなプレスと守備が崩壊してしまった理由を考察します。

 試合の立ち上がり、アーセナルは非常に激しく前線からの守備を仕掛けてきました。リバプールのディフェンスラインに対して、マンツーマンで選手が飛び出して行きます。マティプをオーバメヤンがマークし、ファン・ダイクに対しては右MFのサカが出ていきます。そして、ラカゼットが中盤のファビーニョを監視し、左MFのスミス・ロウはアレクサンダー・アーノルドをケアしていました。アーセナルの前線の選手には、それぞれマークすべきリバプールの選手が割り当てられていたのだと思います。

 アーセナルのプレスは、非常にリスクを負った攻撃的な守備でした。マンツーマンで数的同数のプレスを前線から仕掛けるチームはそう多くありません。全ての選手をマークすることでパスコースを遮断し、ビルドアップ側が戸惑うところで、激しくボールを奪ってすぐさまチャンスに繋げられることがこの守備の狙いでしょう。しかし、数的同数でのマンツーマンプレスは、同時に自陣での数的同数も受け入れており、非常にハイリスクでもあります。

 実際、この試合でもアーセナルはリスクを負って前に出た割には成果を得られず、後方でのリスクが露呈してしまいました。アーセナルの積極的なプレスに動じず、試合を通してミスなくビルドアップをし続けたリバプールも凄まじかったです。

プレスがハマらず、困難な対応を迫られたアーセナル

 アーセナルが仕掛けたプレスは十分な成果を上げることができず、受け入れたリスクが発露する展開になりました。アーセナル守備陣とリバプール攻撃陣のマークが噛み合わず、アーセナル守備陣は難しい対応を強いられることとなります。

 アーセナルは、サカがファン・ダイクの所までプレスに出て行っていました。これは非常に果敢な選択ですが、同時にツィミカスを誰がマークするのかが問われます。左MFのスミス・ロウはアーノルドをマークしており、嚙み合わせとしては、サカがツィミカスをマークするのが普通でしょう。しかし、前線でのボール奪取を試みるアーセナルは、サカがセンターバックまでプレスをかけ、ツィミカスに対峙するのはサイドバックの富安でした。

 そうすると、次は富安がマークしていたマネをどうするかが問題となります。富安がツィミカスにアタックする際は、センターバックのベン・ホワイトがサイドに出てマネと対峙していました。ホワイトとしては、中央でスペースを虎視眈々と狙うジョタも気にせねばならず、センターバックがサイドに出ていくことはあまり歓迎すべきことではありません。しかし、チームとして前線からのボール奪取という狙いを一貫して続けるためには、サカも富安もホワイトも、前に出ていく必要がありました。結果的にはサカを前に繰り出してプレスを仕掛けたことで、富安とホワイトは難しいバランスの中で守備を強いられることになっていました。

 また、中盤のトーマスとロコンガも同様です。チェンバレンとチアゴに加えて、ジョタも頻繁に中盤で縦パスを受けることを狙うため、対応は難しくなります。ホワイトがマネへの対応をしなければいけない都合上、ジョタを引き受けるのは中盤の2人です。しかし、チアゴは下がってボールを受けるので、チームとしてのミッションを遂行するには前に出て潰しに行かなければいけません。トーマスとロコンガは、広大なスペースで数的不利に陥り、難しい対応を迫られていました。

緊急対応も限界を迎えたアーセナルディフェンス

 ここまで述べてきたように、アーセナルはプレスを積極的に仕掛けたものの、ハマりませんでした。その結果、中盤と富安・ホワイトの所で難しい対応を迫られることとなります。しかし、前半の立ち上がりはリバプールの攻撃に晒される機会はそれほど多くありませんでした。

 序盤は比較的うまく守れていた理由として、序盤はインテンシティを高く保てていたということがあるでしょうか。選手のエネルギーがある序盤は、プレスを外されても別の選手がカバーすることで対応できていました。マネに対してホワイトが出ていく際も、確実な守備対応で危機に晒されることはなかったです。また、絶妙なバランス感覚が求められた中盤の守備においても、トーマスとロコンガが適切な距離感を保ってスペースを消し、必要に応じて周囲の選手が加勢することで均衡を保っていました。

 しかし、時間が立つにつれて、選手のインテンシティが落ちてか、マークのズレをカバーすることが難しくなっていきます。後方にスペースを残すリスクを背負って前に出ていたアーセナルですが、狙いが上手く行かずに弱点を突かれる形となりました。何とかつぎはぎでカバーしていた弱点でしたが、時間の経過とともにカバーしきれなくなり、結果的に失点を重ねることになった、というのが筆者の見解です。

プレス破りのキモはチアゴとファビーニョ

 リバプール目線では、この試合のキモとなったのはチアゴとファビーニョの所でしょうか。アーセナルの前線からの激しいプレスをものともせず、ボールを前に進められたのはこの2選手の働きが大きかったように思います。

 4-3-3のフォーメーションによるビルドアップでは、アンカーの選手が重要な役割を担います。ディフェンスラインからボールを引き出し、サイドや前線にボールを配給する役割ですね。そのため、プレスを仕掛ける側としてはアンカーの選手をしっかりと抑える必要があります。アーセナル戦では、ラカゼットがファビーニョの監視役となっていました。

 ファビーニョへのパスコースは遮断されていることが多かったですが、チアゴがアンカーポジションに降りることでビルドアップを助けていました。上でも述べたように、アーセナルは中盤の2人でチアゴ、チェンバレン、ジョタを気にしなければならず、降りていくチアゴに対してあまり深追いできません。トーマスとしては、どこまでチアゴについて行くか、悩ましい所だったでしょう。

 チアゴが中盤の底に降りてビルドアップを助けることで、リバプールとしてはプレスの回避場所ができました。チアゴがフリーでボールを受け、相手選手を引き付けることで、ファビーニョを始めとした他の選手もフリーになることができます。チアゴとファビーニョのビルドアップ能力は非常に高く、彼らの配給を制限できなかったことでアーセナルとしては多くのピンチを招いたのではないでしょうか。

まとめ

 好調のアーセナルを迎えるということで、戦前はやや不安もあった試合でしたが、終わってみればリバプールの快勝。近年のアーセナル相手の相性の良さを改めて示した格好となりました。

 アーセナルが積極的に前に出てきたこともあり、内容としても非常に見応えのある試合となりました。結果的にはリバプールに及ばなかったものの、決して悪いサッカーをしているわけではなかったと思います。アンフィールドでは引き籠りを選択するチームが多い中、アルテタ監督は非常に勇敢に戦ったのではないでしょうか。

 とはいえ、リバプールが苦手とするのは引き籠って戦い、カウンターを狙うチームです。次節のプレミアリーグはサウサンプトン。今後も優勝争いの戦線に残り続けるためには、取りこぼしを無くす必要があり、重要なゲームが続きます。今後の試合にも期待しましょう。