ペップ・シティとクロップ・リバプールの至高の争い プレミア頂上決戦を振り返って

 プレミアリーグ第31節、マンチェスター・シティvsリバプールはまさに頂上決戦でした。首位を走るシティを勝点1差で猛追するリバプール。ここ数年は激烈な争いを繰り広げている両チームの対戦は、非常にレベルの高いゲームでした。

 試合結果は両者譲らず2-2のドロー。今季はアンフィールドでのゲームも2-2で引き分けており、両チームの実力が拮抗していることがわかります。以下はアンフィールドでのリバプールvsシティのゲームの振り返りでした。

 現在の両チームは間違いなく欧州トップクラスでしょう。リーグタイトルを賭けた今回の一戦は、90分を通して、手に汗握る、一瞬たりとも目の離せないゲームでした。今回は、ペップとクロップが繰り広げた熱い戦いを振り返っていきます。

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両チームのスタメン

 プレミアリーグのタイトルを賭けた大事な一戦に向けて、リバプールのチーム状態は非常に良かったと思います。毎年多くの負傷者を出して苦しめられてきたチームが、今年はこの時期に負傷者が0人という状態を保っています。シティ戦を迎えたメンバーを見ても、その充実ぶりがわかります。

 スタメンは現時点でのベストメンバーだったでしょう。アリソン、ファン・ダイク、マティプ、アーノルド、ロバートソンの後ろ5人は鉄壁の守備ユニットです。中盤の3枚も、ファビーニョ、チアゴ、ヘンダーソンのセットが現時点で最も信頼感があるでしょうか。

 フロントスリーは試合前から予想が分かれていましたが、マネ、ジョタ、サラーの3枚が選択されました。途中からディアスとフィルミーノが出てくる陣容には厚みがありますね。

 そして、ベンチの層の厚さにも注目です。ベンチの数が限られているプレミアリーグですが、今回のゲームではオリギ、南野、チェンバレン、エリオットがベンチ外となっています。いずれも実績やポテンシャルのある選手ですが、ベンチにも入れない状況となっています。

 続いて、マンチェスター・シティのスタメンですが、こちらもフルメンバーに近かったですね。唯一欠けているのは、ルベン・ディアスという状況でした。しかし、それでもディフェンス陣は強固で、エデルソン、ストーンズ、ラポルト、カンセロ、ウォーカーは安定の陣容ですね。

 シティの中盤3枚も、ロドリ、デ・ブライネ、ベルナルド・シウバの3枚が最も信頼されている印象です。リバプール同様に、いくつかの選択肢のあるフロントスリーは、フォーデン、スターリング、ガブリエル・ジェズスという並びでした。攻撃的なカードとして、マフレズとグリーリッシュが途中から出てくるのも強力でした。

前半は苦しんだリバプール

 前半の45分はリバプールとしてはかなり苦しかったです。観戦しているファンの心理としても、汗が止まらないような前半でした。

 ペップ、クロップ共にこの試合に向けて対策を用意してきたはずですが、前半はペップのペースに見えました。実際に、ハーフタイムの時点では2-1でシティがリードしていました。ロングボールを使ってリバプールディフェンスの裏のスペースを何度もアタックしており、ハイプレスも機能していました。ロングボールからの攻撃と、ハイプレスからのショートカウンターは、守るリバプールとしては非常に脅威でした。

 一方のリバプールは、全てのプレーがあまりうまく行かずでした。プレッシングの形を普段とは少し変え、サラーとマネの両ウィングは相手のサイドバックをマークし、センターバックには2人のインサイドハーフが出て行く形を採用したリバプールですが、結果的に自陣に押し込められることになります。

 インサイドハーフが出て行くので、ファビーニョの両脇のスペースを使われるシーンも多かったです。シティにビルドアップを許し、自陣で守る時間が長くなります。

 また、自陣でボールを回復した後のビルドアップもあまりうまく行っていませんでした。両ウィングが守備時に低い位置まで下がっていたことで、前線に起点をあまり作ることができなかったです。前半のシティの試合運びは素晴らしかったのではないでしょうか。

リバプールの再現性

 シティペースで進んだ前半でしたが、リバプールとしては想定内のことだったとも言えるでしょう。アンフィールドでのシーズン序盤の戦いも、前半戦はシティがペースを握っていました。この辺りは、ペップの作戦力がさすがなのかもしれません。

 しかし、今回のエティハドでのゲームでも、また過去のシティとのゲームでも、リバプールはきっちりとゴールを奪っています。試合のペースを握られた時間帯でも、個人の力をベースにした一発を入れられるのがリバプールの強さです。このような、時には理不尽ともとれるようなゴールを、再現性を持って奪えるのが、今のリバプールだと思います。

 リバプールの持つフットボールの再現性は、ペップ・シティのそれとは全く別物に見えます。ペップ・シティは、整備された約束事の中でビルドアップや最終局面の崩しを行い、「よく見る形」で相手ゴールを陥れます。これはペップの追求する、ポジショナルプレーによる再現性でしょう。

 一方のクロップ・リバプールには、シティのような「よく見る形」での最終局面の崩しは少ないと思います。しかし、各選手がアイデアや技術で連携して、多様な形でゴールを奪います。普通はゴールを奪うのが難しい局面から、ゴールまで持っていけるチームがリバプールです。

 この、「難しい局面からゴールを奪う力」を狙って繰り返し発揮できることがリバプールの持つ再現性でしょう。ペースを握られる中で、数少ないチャンスを狙う戦いもフットボールではよくあることです。しかし、一見すると苦しい展開の試合でもゴールを奪い、苦しんでいるとは思わせない強さをクロップ・リバプールは秘めていると思います。

後半のリバプールの巻き返し

 シティペースで前半を終えた試合でしたが、後半からはリバプールもペースを取り戻しました。開始早々にマネがゴールを上げると、その後の展開ではクロップらコーチングスタッフがさすがの改善を見せます。

 まずは、シティが散々狙っていたハイラインの裏に対して、ディフェンスラインを下げるという対応を施しました。ハイラインを保つのは変わらずですが、シティがロングボールを蹴る瞬間にはラインを下げて対応するようになりました。

 普段はしない最終ラインのコントロールを、試合の途中に導入するのは非常に難易度が高いと思います。特にハイライン戦術は、ラインを形成する選手の連携が重要になるため、一朝一夕で構築できるものではありません。それを、普段のハイラインをベースに柔軟な変化を加えるとは、非常にレベルの高い変更だったと思います。

 また、後半になってリバプール側のプレス強度が高まったようにも見えました。前半と変わらず、両ウィングはシティの両サイドバックを監視していましたが、前に出て行く頻度は高まったようにも思います。

 プレスの強度が高まったことで、中盤でボールが入れ替わることも多くなり、試合としてはより両チームにとってスリリングなものになりました。勝敗はつかなかったものの、非常にレベルの高い、見応えのあるゲームでした。

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今後のタイトル争い

 リバプールとシティの優勝争いは熾烈を極めています。両チームともに残り7試合ですが、競争相手の実力を考えると1試合も落とせないところです。非常にレベルの高いタイトルレースが最後まで続きそうです。

 また、この両チームはプレミアリーグだけではなく、FA杯とチャンピオンズリーグのタイトルも争っています。次週、FA杯は準決勝での直接対決ですね。リーグ戦での至高の戦いの後、すぐにまた激突するとは、ファンとしては非常に楽しみです。

 チャンピオンズリーグについても、両チーム共にベスト8に残っています。直接対決が実現するとすれば決勝の舞台ですが、その可能性も十分にあるほど、両チームのレベルは高いです。

 欧州フットボールのシーズンも最終局面に入っています。最後の最後まで目が離せない、非常に熱いシーズンになっています。