ジェラード監督のアストン・ヴィラ分析 リバプール戦から読む ジェラードのサッカー

 21-22プレミアリーグ第16節、リバプールvsアストン・ヴィラの試合、スティーブン・ジェラードがアストン・ヴィラの監督としてアンフィールドに帰還しました。ジェラードはリバプールが苦しんだ時期にチームに身を捧げ、キャプテンとしてチームを牽引した偉大なレジェンドでしょう。

 そんなジェラードは、21-22シーズンの途中からアストン・ヴィラの監督に就任し、プレミアリーグへのチャレンジをスタートさせています。リバプールを退団し、アメリカで引退したジェラードは、リバプールの下部組織、レンジャーズを経て、アストン・ヴィラの監督に就任しました。レンジャーズでは、無敗優勝という実績を残したジェラード監督。就任したヴィラでは、どのようなサッカーを標榜し、どのようなチームを組織しているのか、アンフィールドでの一戦から読み解いていきたいと思います。

リバプールを応援も、複雑なファンとしての感情

 アンフィールドで行われたこのゲームは、1-0でホームのリバプールがアストン・ヴィラを降す結果となりました。このゲーム、リバプールファンとしては非常に複雑な感情で見ていました。

 もちろん、リバプールサポーターとして、リバプールの勝利が一番応援すべきものになります。しかし、ジェラードが監督としても手腕を発揮し、将来的にリバプールを率いている姿を見てみたいという希望もあります。今のリバプールは、欧州トップのチームですから、招聘される監督の能力も高くなくてはいけません。もしこの一戦で、リバプールが結果的・内容的にジェラードのヴィラに大勝するようなら、少なからずリバプールファンとしてはジェラード監督の手腕に不安を抱えることになるでしょう。

 そうした感情から1-0でリバプールが勝利、というのはサポーターとしては最も安堵な結果だったのではないでしょうか。内容的にも、ジェラードのヴィラは非常に積極的で、ポジティブなサッカーを展開していました。リバプールがボールを保持し、攻め込む時間が長かったのは確かですが、アストン・ヴィラは要所で的確な守備対応を見せていました。また、特に前半には何度も勇敢なビルドアップが見られたのは非常に好印象でした。

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ジェラード・ヴィラのビルドアップ

 アンフィールドでのリバプールとのゲームから、ジェラードは攻撃時は自分たちで丁寧にボールを保持して繋ぎ、守備時はアグレッシブに前に出ていくチームを目指していると感じました。監督に就任してまだ5試合目でしたが、チームに自分の色を反映させていたのではないかと思います。

 まず攻撃面についてですが、後ろからボールを繋ぎ、丁寧にビルドアップしようとする姿勢が鮮明に表れていました。特に前半に関しては、リバプールの前からの激しいプレスを恐れず、後方からビルドアップをスタートしていました。ゴールキックの際にも、GKの両脇に2人のCBが配置され、リバプールのプレッシングを受けて立つ形でビルドアップを行っていました。

 リバプールと対戦するチームの多くは、丁寧に繋ぐビルドアップを標榜しつつも、激しいプレッシングに耐えられず、前線へのロングボールが多くなりがちです。しかし、前半のヴィラは一見危ないシーンでもしっかりとボールを繋ぎ、意味のないロングボールを極力使わないようにしていました。そして、リバプールのプレスから逃れるビルドアップの出口も設計されており、効果的にボールを前進させられるシーンもあったかと思います。

 そのビルドアップの出口というのは、ターゲットとキャッシュの両サイドバックのポジションです。ヴィラはGKのマルティネス、センターバックのコンサとミングスにインサイドハーフが絡んでボールを保持します。リバプールの3トップは前からプレスに行くので、その隙にターゲットとキャッシュの両サイドバックが高い位置に進出していました。

 そして、浮き球を効果的に使用しながらフリーになっているターゲットとキャッシュにボールを届け、前進するというのがヴィラのビルドアップの様でした。ヤングとラムジーの両ウィングも高い位置をとるため、アーノルドとロバートソンも迂闊に前に出て、キャッシュやターゲットをマークできなかったのですね。特にアーノルドの所で、サイドの高い位置に張っているヤングと上がってくるターゲットの2人を1人でマークしなければいけず、判断に困っているシーンがありました。

 後半に関しては、リバプールのプレスを継続的に受け続けるのはリスクが大きいと判断したのか、丁寧に繋ぐことへのこだわりは見られませんでした。ゴールキックもマルティネスがロングボールを蹴っており、センターバックのサポートもなかったので、あくまで勝負にこだわったのだと思います。しかし、ジェラードが監督としてビルドアップを整備し、一定の機能を見せていたのは確かではないでしょうか。

ジェラード・ヴィラの守備

 続いて、守備のやり方に関してですが、こちらもリバプール戦を見る限りは、良く組織されていたと感じました。

 アストン・ヴィラの守備は、まずは中央のレーンを堅く閉じるというものでした。4-3-3のブロックを採用していましたが、横幅は非常にコンパクトになっており、中央の突破をまずケアする姿勢が見られました。そして、対リバプールを考える際に、多くのチームがファビーニョとチアゴの所を監視する必要があります。リバプールのビルドアップは彼らから球の配給が行われるため、守備側のチームとしては非常に重要なポイントです。

 ヴィラはこのファビーニョとチアゴの監視役を右ウィングのジェイコブ・ラムジーに任せていました。攻撃面でも中央に寄ることの多いラムジーでしたが、守備面でも中央でのタスクを任されていました。その分、ロバートソンがフリーになるシーンが多かったのですが、そこはボールが入ってからの対応で大丈夫という判断だったと思います。ヤングがアーノルドのことを気にかけていたのに対し、ロバートソンはフリーで受けられることが多かったです。

 ボールを受けたロバートソンに対しては、インサイドハーフのマッギンがサイドに出て対応していました。ビルドアップ時にインサイドハーフがセンターバックの脇に落ちる動きと言い、この辺りのタスクは2年ほど前のリバプールと同じですね。ジェラードがリバプールの影響を受けているということも考えられるのでしょうか。

 中央を固めることを最優先し、ロバートソンがある程度フリーになることを許容しつつも、アストン・ヴィラは長い間よく耐えることができていました。その理由の一つとして、各選手が守備の局面で強く闘えていたことがあると思います。中央に入ってくるボールに対して、ヴィラの守備陣のインテンシティは非常に高かったです。心身が充実した状態にあるのかと推測できますが、ジェラードはこの辺りの選手を刺激する能力もあるのかもしれません。

ここまでのジェラード監督の総評

 アストン・ヴィラの監督に就任し、自身の色をチームに植え付け始めているジェラード監督。アンフィールドでのリバプール戦を見て、ジェラードの監督としての手腕には期待が高まったと思います。

 監督として、自身の標榜するサッカーをチームに植え付けることは非常に重要な能力です。ジェラードはその能力の片鱗を見せているのではないでしょうか。クロップがリバプールに来た際も、シーズン途中での就任でした。そして、クロップが指揮を執った初めての試合、それまでのロジャース体制とメンバーは変わらないはずなのに、サッカーの質は一変したのを覚えています。ジェラードはチームに闘志を植え付けることにも成功しており、良い影響を与えているのだと思います。

 また、監督には自身のサッカーをチームに植え付けた上で、試合に勝利することが求められます。この点に関しては、今後のジェラードのヴィラがどうなっていくかに注目でしょう。しかし、現時点では非常に良いスタートを切っていると言えます。

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 ジェラードが就任する前のアストン・ヴィラは、リーグ戦5連敗という泥沼にハマっていました。しかし、ジェラードが就任後は3勝2敗となっており、その2敗はアウェイでのシティ戦とリバプール戦です。明らかにチームを立て直したと言えるでしょう。しかし、監督交代時にはチームの空気の変化によって一時的に成績が上向くことはよくあることです。ジェラード監督の真価が問われるのは今後でしょう。

 とはいえ、ジェラードは監督としてスコットランドで確固たる実績を残しています。経営破綻によって4部からのやり直しとなり、1部に復帰したもののセルティックに大きく差を付けられていたレンジャーズの監督に就任したジェラードですが、最終的にはリーグ優勝をもたらしています。宿敵セルティックの連覇を9で止め、無敗優勝を成し遂げたチームを作り上げたのでした。ヴィラでも滑り出しは好調ですが、今後も監督としての成功の道を進んでくれるのではないか、という期待はあります。

今後のヴィラへの期待

 アストン・ヴィラは、レベルの高い選手が揃った非常に良いチームです。ジェラード就任前は苦しんでいたとはいえ、各国代表レベルの選手が揃っており、選手層は決して悪くないと思います。

 実際、リバプール戦でもエミリアーノ・マルティネス、タイロン・ミングス、ドウグラス・ルイス、ジェイコブ・ラムジー、ワトキンスといった選手は印象的なプレーを見せていました。ベンチに控えているのも、ブエンディアやイングスといった実績のある選手たちです。

 そんな選手の質が高いチームがジェラードの下でどのように成長していくかは非常に楽しみです。リバプールファンとして、リバプールを応援することが一番ではあるのですが、偉大なレジェンドであるジェラードの監督としての挑戦という、新たな楽しみを得られたのではないでしょうか。