22-23シーズンのプレミアリーグにおいて、日本で注目が集まっているチームの一つにブライトン&ホーブ・アルビオンがあるでしょう。日本代表のサイドアタッカー、三笘薫が22-23シーズンよりチームに加入し、注目度を高めています。
ブライトンはプレミアリーグにおいては中堅という立ち位置のチームながら、近年は非常に興味深いサッカーを展開しているチームです。21-22シーズン序盤には上位に顔を出しており、22-23シーズンも非常に好調なスタートを切っています。
この記事では、ブライトンにはどのような選手が所属し、どのようなサッカーを展開しているのか。そして、三笘はチームの中でどのような役割を担うのか、を考察していきます。
ブライトンの歴史
イングランド・プレミアリーグに所属するブライトン&ホーブ・アルビオンFCは、イングランド南部の街、ブライトンに本拠地を置くサッカーチームです。ブライトンは綺麗なビーチが有名で、イギリスの中では比較的温暖な南部に位置する海沿いの街です。約30,000人を収容可能な、通称アメックス・スタジアムを本拠地としています。
クラブの創設は1901年と、歴史のあるチームです。しかし、長い歴史の大半をイングランドの2部や3部相当のリーグで過ごしています。トップリーグへの在籍は、1979-1980シーズンから1982-83シーズンまでの4期のみとなっていました。
そんなブライトンですが、16-17シーズンにプレミアリーグへの昇格を決めると、17-18シーズンからはプレミアリーグの舞台で戦い続けています。昇格直後の17-18シーズンから20-21シーズンまでの4シーズンは、15位、17位、15位、16位とギリギリ残留と言う結果でしたが、21-22シーズンには9位と躍進を遂げています。22-23シーズンも好調な滑り出しを見せており、上昇気流に乗るチームです。
グレアム・ポッター監督の退任
そんな上昇気流のブライトンですが、22-23シーズン開幕後、チームは大きな転換期を迎えています。21-22シーズンから続くブライトンの好調ぶりを支えた、グレアム・ポッター監督を含めたコーチ陣がチェルシーに引き抜かれてしまいました。ポゼッションを基調としたサッカー哲学を持つイングランド人監督は、ブライトンで確かな足跡を残しましたが、ステップアップの決断を下しています。
グレアム・ポッターは非常にユニークな経歴の持ち主でした。選手時代は、主にイングランドの下部リーグでプレーし、1996-97シーズンにサウサンプトンでプレミアリーグを1シーズンだけ戦っています。30歳で現役を引退すると、指導者としてのキャリアをスタートさせ、主にイングランドの大学フットボールにて活動しています。
そんなポッターが名を上げることになったのは、スウェーデンにおける躍進によってでした。2010年に、当時スウェーデン4部に所属していたエステルスンドの監督に就任すると、5年で3度の昇格を果たし、チームをクラブ史上初のスウェーデン1部リーグ昇格に導きます。そして、2017年には国内カップ戦を制し、クラブ史上初のタイトルを獲得しました。
その際、ヨーロッパリーグ(以下EL)の予備予選出場権を獲得すると、トルコの名門ガラタサライ、ギリシャ王者PAOKを降し、EL本戦に出場しました。続く本戦グループリーグも、アスレティック・ビルバオ、ヘルタ・ベルリンに加え、ウクライナのゾリャ・ルハーンシクと同居した中で、3勝3分の無敗で勝ち上がっています。決勝トーナメント1回戦ではアーセナルと対戦し、トータルスコアでは敗れたものの、エミレーツ・スタジアムで2-1の大金星を飾っています。
スウェーデンのクラブを率いて躍進したポッターは監督として一躍有名になります。翌18-19シーズンにはイングランドに戻り、プレミアリーグから降格したばかりのスウォンジーを率います。スウォンジーでは結果こそ10位でしたが、魅力的なポゼッションサッカーを展開し、期待値の低かったチームに希望を持たせました。その結果が評価され、1年でブライトンに引き抜かれることになります。
19-20シーズンからブライトンの監督に就任すると、ブライトンでも自身の信条とするポゼッションを重視したサッカーを展開します。最初の2シーズンは15位、16位と下位での残留となったものの、選手補強も積み重ねたチームは21-22シーズンには9位でフィニッシュしています。22-23シーズンは更に選手層が増し、ポッター監督のポゼッションサッカーにも磨きがかかっているところでしたが、急遽チームを去ることになりました。ポッター監督の退任はブライトンにとっては悲しいニュースでしたが、チームはしっかりとポッターの哲学を受け継ぐ後継者を新監督に迎えています。
Embed from Getty Images新監督に就任したデ・ゼルビ監督
ブライトンの新監督に就任したのは、イタリア版ペップとも呼ばれるロベルト・デ・ゼルビでした。デ・ゼルビもポッター同様、ポゼッションを基調とするサッカー哲学を持った監督です。今のブライトンには非常にフィットする監督ではないでしょうか。
ロベルト・デ・ゼルビもポッター同様、選手時代は華やかなキャリアを歩んだわけではありませんでした。ACミランの下部組織で育成を受けたデ・ゼルビですが、トップチームでの出場機会は得られず、セリエBやセリエCで選手時代を過ごします。その後所属したナポリでセリエAに3試合出場しますが、それ以上の活躍はありませんでした。ナポリ退団後はルーマニアで過ごし、国内2冠やチャンピオンズリーグ出場も経験した後、イタリアに戻って34歳で引退しています。
指導者の道を志したデ・ゼルビは、セリエBやセリエCといった下部カテゴリーで監督業をスタートさせます。すると、そこでポジショナルプレーをベースとしたボール保持を中心とした魅力的なサッカーを展開し、注目を集めます。そして、監督4年目の16-17シーズンはセリエAのパレルモを率いることになります。
パレルモでは経営陣との対立もあり、上手く行きませんでしたが翌年はベネヴェントを率いて魅力的なサッカーを展開します。チームは降格となったものの、そのサッカーが評価されてデ・ゼルビは翌シーズンはサッスオーロに引き抜かれます。サッスオーロでは3シーズン過ごし、チームを中位以上を目指す位置に引き上げました。
21-22シーズン、デ・ゼルビはウクライナ・プレミアリーグのシャフタール・ドネツクの監督に就任します。ここでも魅力的なポゼッションフットボールを展開し、国内カップ戦制覇とリーグ戦でも首位を走る戦いを見せていました。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻によってシーズンはストップ、デ・ゼルビも国外脱出を余儀なくされました。シャフタールとの契約も解除となり、フリーとなっていたデ・ゼルビでしたが、今回ブライトンの監督に就任しています。
Embed from Getty Images22-23シーズンのブライトンのメンバー
ここ数年はプレミアリーグに定着しているブライトンは、近年では積極的な戦力補強を行っています。ビッグクラブでの経験が豊富で、イングランド代表歴のあるダニー・ウェルベックやアダム・ララーナといった選手を獲得してきたのはその代表例でしょう。他にも、各国代表クラスの選手を揃えており、22-23シーズンからは日本代表の三笘薫もメンバーに加えています。そんなブライトンの主要メンバーは下記の通りです。
22-23シーズンはポッターからデ・ゼルビに監督交代がありましたが、主に3-4-3のフォーメーションで戦っています。しかし、デ・ゼルビは4バックシステムをこれまでは活用してきた監督であり、就任3試合目のブレントフォード戦では4-4-2を採用しています。今後のフォーメーションがどうなるかは注目ですね。
3バックを形成するウェブスター、ダンク、フェルトマンの3選手は、フィジカル能力にも優れ、強固な守備ブロックを構成しています。GKのロベルト・サンチェスも含め、バックラインは足元の技術も高く、ポゼッションスタイルに適した選手たちです。
そして、2ボランチを務めるのはマク・アリスターとカイセドです。マク・アリスターは長くブライトンでプレーする選手で、中央でボールを持って散らせるテクニカルな選手です。カイセドは強力なフィジカルを活かした守備と、推進力が特徴ですね。ザルツブルクで若くして台頭したムウェプ、チェルシーからローンで加入したギルモアといった期待の若手も控えています。
ウィングバックにも豊富な人材を揃えています。右WBには昨季からチームを支える左利きのグロス、スピードとフィジカルのあるランプティがいます。また、今夏にビジャレアルから高額の移籍金で獲得したエストゥピニャン、ドリブル突破を武器としてジョーカーの起用が多い三笘薫といった選手を揃えています。ポッター時代はトロサールもこのポジションでプレーすることもありましたが、デ・ゼルビはウィングのポジションで起用しています。昨季に活躍を見せたククレジャはチェルシーに引き抜かれましたが、WBの選手層は厚くなっています。
前線シャドーのポジションでは、前述のトロサールに加え、運動量とテクニックに優れたアダム・ララーナ、戦術理解度が高く、チームへの貢献度が高いパスカル・グロスといった経験豊富な選手が在籍しています。そして最前線には強靭なフィジカルでタメを作れるウェルベックが構えており、チーム全体でタレント力は高いです。
心臓に遺伝性の重大な問題が見つかったことが原因で、サッカー競技からの引退を余儀なくさたとのことです。
ブライトンの戦術
ここからはブライトンが展開するフットボールの特徴を攻撃①自陣からのビルドアップ、攻撃②敵陣での崩し、守備①敵陣での守備、②自陣での守備の4つの局面から読み解きます。なお、参考としているのは、デ・ゼルビ就任直後のプレミアリーグのリバプール戦(3-3)、トッテナム戦(0-1)、ブレントフォード戦(0-3)の3試合となっています。
攻撃① 自陣からのビルドアップ
ブライトンはポゼッションを重視し、後ろからボールを繋ぐスタイルを保持しているチームです。自陣からのビルドアップについてもボールを大切に、パスを繋いで前進することを目指します。
自陣からのビルドアップにおける基本的な配置は、3バック+2ボランチがユニットを組んで後方を安定させます。3バックが幅を取ってパスコースを確保し、前向きでボールを保持すると、2ボランチは中央でボールを引き出すことを狙います。基本的にはこの5枚が後方でボール回しを行い、前線の3選手にボールを届ける機会を伺います。
前線にボールを届けるパターンとしては、中盤のカイセド、マク・アリスターがボールを引き出して前線に展開するシーンが多く見られます。足下のテクニックに優れ、ゲームメイクが得意なマク・アリスターと推進力に優れたカイセドは共に良くビルドアップを助ける存在です。
加えて、サイドの大外レーンを活用した前進も見られます。大外レーンは両WBがカバーしており、やや高めの位置を取ります。後方5枚のビルドアップ部隊がWBにパスを出し、そこから前進を試みるシーンは多く見られました。WBが大外レーンをカバーするため、2シャドーは内側のハーフスペースを取ることが多いですが、トロサール、グロス共にボールを引き出してビルドアップを手助けできる選手です。
3バックでビルドアップを行う場合、CBにパス出しが得意な選手がいれば、CBからシャドーやCFに直接縦パスが入る形も一般的ですが、ブライトンではあまり見かけない形です。3バックを形成する3選手が積極的に縦パスを入れるケースは多くなく、ボランチやWBを経由する形が多いですね。相手の激しいプレッシャーに晒されると、前線のウェルベックをめがけて放り込むこともありますが、これが成立するのはウェルベックの能力があってこそです。
攻撃② 敵陣での崩し
敵陣に侵入した後のブライトンは個人の特徴を生かしつつ、シンプルに攻撃を完結させることを目指します。基本的にはウェルベック、トロサール、グロスの3選手が近い距離感を保って1タッチ、2タッチでスペースを攻略することを目指します。ウェルベックは裏抜けも得意としており、裏に抜け出してフィニッシュする形は自分の型として持っていますね。
敵陣でボールを保持していてもスペースがない場合は、幅を使って相手守備陣の攻略を目指します。エストゥピニャン、マーチのWBが幅を目いっぱい確保し、相手を揺さぶります。エストゥピニャンは縦突破からのクロス、グロスは逆足で斜めに差し込むボールを武器としており、中央にはターゲットとなれるウェルベックがいます。
しかし、シンプルなクロスによる攻撃はあまり多くなく、あくまでパスを繋いでゴールを目指します。サイドからグラウンダーで中央のシャドーにボールを預け、そこからフリックなどで守備陣の崩しに挑戦するパターンも多いですね。やはり敵陣での攻撃ではトロサールが輝きを放っており、チームの中心となって攻撃を牽引しています。ここに後半から投入される三笘のドリブル突破も加わり、破壊力のある個人能力を駆使した攻撃が特徴です。
守備① 敵陣での守備
デ・ゼルビのブライトンは、敵陣からのプレッシングを狙いながらも、ミドルプレスを仕掛けることのあるチームです。対戦相手がリバプール、トッテナムのような強豪の際には、よりリトリートの色が濃く、ミドルプレスを狙っていました。WBが低い位置を取って5バックを形成し、5-4-1のような形でブロックを構え、相手がブロックの中に侵入してくるタイミングを待ち構えます。
そして、一度相手が守備網の中に入ってくると、強度の高いプレッシングを仕掛けます。ボールホルダーに対して近くの選手が前に出て行く守備を行い、この状況においては5バックを形成する選手たちも積極的に前に出て迎え撃ちます。CBの選手がボールを迎撃して出て行っても穴が開かないのは5バックシステムの強みですね。
一方で、トッテナム戦の1点を追いかける時間帯や、中位のブレントフォード戦では積極的に前線からのプレスを仕掛けました。4バックと2ボランチは初期位置こそ高くはありませんが、一度プレスのスイッチが入ると前に出ることを恐れません。素早くボールを奪い切ることを目的に強度の高いプレッシングを仕掛けていました。
守備② 自陣での守備
自陣での守備においても5-3-2のブロックをしっかりと形成して守備を行います。基本的に5バックは低いラインを形成し、相手に裏を取らせません。WBも初期位置が低いこともあり、きれいな5バックを形成しています。
2ボランチの2選手もあまりポジションを動かすことはなく、中央に留まっています。ウィングの選手が積極的にボールホルダーにアタックを仕掛け、中央に入って来るボールに対しては3バックが強く対応します。3バックの3選手は退陣に強く、あまり大崩れしないですね。
5-3-2で自陣ではブロックを形成するブライトンですが、守備ブロックを形成している時間はそれほど長くありません。やはり自分たちでボールを保持し、試合を長く支配したいチームです。ボールを保持している時間も長く、守備時においても前線からのプレッシングやミドルブロックでボールを回収できていました。
三笘薫の考察
最後に、ブライトンでプレーする三笘薫について考察していきます。プレミアリーグの舞台でプレーする日本人プレイヤーの存在は、日本のファンにとっては気になるところでしょう。
ポッター時代から引き続き、デ・ゼルビになってからも三笘はジョーカーとしての起用が目立ちます。左WBや、フォーメーションを4バックに変えて左ウィングで出場したり、右サイドで使われたりもしていますね。いずれにしても、基本的には大外のレーンでドリブル突破による攻撃面での役割を期待されています。実際に、出場した際には自身の武器であるドリブル突破を存分に発揮し、存在感を示しているところです。
ジョーカーとしての起用がメインとなっていますが、プレータイムはきちんと確保できており、監督からの信頼は厚いでしょう。ピッチでも結果を残せており、三笘がボールを持つとアメックス・スタジアムのファンは大いに盛り上がっているところからも、期待を感じます。
今後の起用についても、このフォーメーションにおいてはWBでのジョーカー起用がメインになるのではないでしょうか。三笘の武器である1対1のドリブル突破を活かせるのは大外レーンのポジションでしょう。現状のブライトンのシステムではWBにあたります。
しかし、スタートからの起用であればWBに求められる能力は、攻撃力に加えて、上下の運動を繰り返すことのできる能力と守備能力です。攻撃に強みを持つ三笘をWBで最初から起用するよりも、上述の能力を備えたエストゥピニャンがスタートでは出てくる可能性が高いでしょうか。そして、試合の中盤以降に三笘を投入して得点を取りに行くパターンは戦術として合理的です。
もちろん、チームのフォーメーション変更や怪我人などのチーム事情によって状況は異なってくるでしょう。デ・ゼルビはこれまで率いたチームでは4バックシステムを好んで使用してきました。ジョーカーとして起用される三笘は、大外レーンでのドリブル突破で相手の脅威になっており、プレミアリーグでも強力な武器になっています。今後は先発で出場する機会も増えてくることでしょう。
まとめ
今回の記事では、ブライトンの選手紹介と戦術の考察を行ってきました。グレアム・ポッターの下で継続的に良いチーム作りを行ってきたブライトンですが、22-23シーズン序盤にポッターがチームを去ったのは痛手でした。
しかし、ポッターのサッカー哲学を似た哲学を信条とするデ・ゼルビを新たに招聘し、ファンの期待も高まっているのではばいでしょうか。本記事ではデ・ゼルビ就任後の3試合を分析してきましたが、確かにデ・ゼルビの色は出てきていると感じます。結果は付いてきていませんが、今後は上向くことが期待されるでしょう。
また、22-23シーズンからブライトンで戦う三笘薫についても注目です。三笘の武器である切れ味鋭いドリブルはプレミアリーグでも炸裂しており、新監督からの信頼も掴んでいます。今後は更に活躍の機会を増やし、ゴールやアシストなどの結果もついてくると、日本人ファンとしてもうれしい限りですね。