【クロップ・リバプールの戦術】4冠に近づく21-22シーズンのリバプールの戦術を考察

 ユルゲン・クロップが監督に就任して以来、リバプールは黄金期を迎えています。長らく低迷していたクラブに監督として就任したユルゲン・クロップは、時間をかけてチームを再び欧州トップクラスへと導きました。

 クロップの下で、リバプールはチャンピオンズリーグとプレミアリーグ制覇を経験した後、更なる成熟を経て、21-22シーズンは4冠制覇へのチャレンジを続けています。ペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティをはじめ、多くの強敵が存在するイングランドとヨーロッパの舞台で勝ち続けています。

 今回の記事では、ユルゲン・クロップ率いる21-22シーズンのリバプールが、どのような戦術的狙いを持ってチームとしてプレーしているかを考察していきます。

21-22シーズン リバプールの主なメンバー

 21-22シーズンのリバプールは非常に選手層も厚く、充実した陣容を保持しています。シーズンを通して怪我人も少なく、シーズン後半にはクロップも、「自身の監督キャリアで最も充実したスカッド」と発言していました。そんな21-22シーズンのリバプールの陣容は以下の通りです。

21-22シーズン リバプールのメンバー

 各ポジションに複数の選手が揃っており、メンバー層の充実ぶりがわかります。1月に加入したルイス・ディアスもチームに即フィットし、前線に更なる厚みを加えました。シーズン終盤の怪我人がいない時期には、エリオット、チェンバレン、南野、オリギと言った選手たちがベンチに入ることができませんでした。

 前年の20-21シーズンは怪我人が相次いだシーズンでした。特にセンターバックは壊滅的で、ファン・ダイク、マティプ、ゴメスが揃ってシーズンアウトの怪我を負うと、ファビーニョやヘンダーソンに加え、ナット・フィリップスやリース・ウィリアムズと言った若手がセンターバックを務めていました。

 21-22シーズンは、元々のセンターバックの主力選手たちが復帰したことに加え、夏には新たにコナテを獲得しました。また、その他のポジションにおいてもチアゴが前年に増してフィットし、例年は怪我がちだったケイタやヘンダーソンと言った選手も怪我が少なくシーズンの終盤に臨んでいます。

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クロップ・リバプールの特徴

 クロップ・リバプールが展開するサッカーは、非常にダイナミックで魅力的です。クロップの代名詞はゲーゲンプレッシングを始めとしたハイプレスと、素早いカウンターによる攻撃です。21-22シーズンのリバプールも、激しい前線からのプレッシングと縦に速い攻撃を得意とするチームでした。

 しかし、近年の勝ち続けるリバプールは、自分たちでボールを保持して相手のブロックを崩すサッカーも苦にしません。リバプール相手に自陣に閉じこもる戦い方を選択するチームも多く、引いた相手にもしっかりと勝利することはクロップのチームの課題でした。

 21-22シーズンのリバプールは、全てのポジションに攻撃面で脅威となる選手を抱えています。前線のタレントは破壊力があり、両サイドバックのアシスト能力は非常に高いです。中盤のチアゴやファビーニョはゲームの組み立てだけではなく、チャンスメイクもこなしますし、時には両センターバックまでもが相手ゴール前で脅威になります。どこからでもチャンスを生み出し、ゴールを奪ってしまう強さがリバプールにはあります。

 そんな破壊力満点のリバプールについて、ここからは攻撃と守備の各局面で、チームとしてどのような戦術が整備されているかを詳しく見ていきます。サッカーの局面の区分にはいくつかの方法がありますが、ここではボール保持時を攻撃、ボール非保持を守備と定義し、更に攻撃と守備をそれぞれ敵陣でのアクションと自陣でのアクションに区分します。

クロップ・リバプールの攻撃戦術① 自陣からのビルドアップ

 まず最初に見ていくのは、攻撃時における自陣でのアクションです。クロップのリバプールは、前線にスペースがあれば素早く敵ゴールに迫ることを目指します。縦に速く攻めるサッカーがクロップの信条であり、相手のブロックに綻びがあれば一気にゴール前まで迫ります。自陣からのロングボール一本でチャンスを作り出すこともありますが、その一本のパスを出せる選手と受けられる選手が揃っています。

 特にアレクサンダー・アーノルドから繰り出される一撃は驚異的で、一本のパスで決定的なチャンスを生み出します。ファン・ダイクやチアゴ、ファビーニョなどの後方の選手も局面を大きく変えるパスを得意としており、敵陣の乱れがあれば大きな展開からゴールを目指します。

 一気のロングボールが難しい場合は、自陣からショートパスを使ってビルドアップを行います。相手がハイプレスを仕掛けてきても苦にせず、ビルドアップの能力も非常に高いチームです。相手のプレッシングの形によって、チアゴやファビーニョがディフェンスラインをサポートし、数的優位を保って前進します。中盤から前線へとボールを運ぶルートは、中央、サイドのどちらも活用します。

 リバプールのセンターフォワード(CF)を務めるジョタやフィルミーノ、マネは相手のライン間でボールを受けるのが非常に上手いです。ディフェンスラインや中盤の選手からボールを引き出し、攻撃のスイッチを入れるパターンをリバプールは得意としています。

 また、サイドの幅は必ず誰かが確保しており、中央が難しければサイドを使って前進します。左はロバートソンやディアス、右はヘンダーソン、サラー、アーノルドなどが局面によって幅を取る役割を担い、フリーでボールを受けると一気に前進します。

 リバプールはビルドアップのパターンが非常に豊富で、なんでもこなしてしまうチームです。精度の高いロングボールに加え、ショートパスを繋いでのビルドアップも高いレベルでこなします。ビルドアップに特定の型がなく、中央もサイドも活用できるため、対策が非常に困難なチームです。

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クロップ・リバプールの攻撃戦術② 敵陣での崩し

 自陣からのビルドアップでは様々なパターンを持ち、守備側に的を絞らせないリバプールですが、それは敵陣での攻撃においても同様です。21-22シーズンのリバプールは攻撃力が凄まじく、自陣に引き籠ってゴール前を徹底的に固めるチームからもゴールを奪い続けました。ここでは、リバプールによる相手守備ブロックの攻略法を見ていきます。

 クロップ・リバプールはボールを保持した敵陣での攻撃において、サイドの攻略を非常に重要視してるように見えます。片方のサイドでウィング、サイドバック、インサイドハーフが絡み、サイドを攻略して相手ゴールを目指します。両サイド共に個人の能力が強烈、かつ連携も上手くてラストパスの精度が高い選手が揃っており、守備側としては90分間対応し続けるのは非常に困難です。

 右サイドは主にサラー、アレクサンダー・アーノルド、ヘンダーソンの3枚でトライアングルを構築します。3選手が流動的にポジションを取りつつ、サラーの仕掛けや裏抜けによってサイドの突破を狙います。また、アーノルドにはどこからでも常に一撃必殺のラストパスがあり、守備側からすると脅威でしかありません。ヘンダーソンは機動的にサラーとアーノルドのサポートをしつつ、自身もクロスや裏抜けを狙います。

 一方の左サイドのユニットは、ロバートソン、マネ(ディアス)、チアゴであることが多いです。ロバートソンはクロスや深い位置まで入り込む能力が高く、ドリブルの突破も得意なマネやディアスと連携して左サイドを攻略します。チアゴは基本的には彼らのサポート役で、ボールを引き取っては配給し、サイドの攻撃にリズムをもたらします。

 両サイド共に強力なユニットを抱え、サイドを攻略する力の高いクロップのチームですが、頻繁にサイドチェンジを繰り返すのも特徴です。片側のサイドで攻略が難しいと見ると、サイドを変えて再び攻略に取り組みます。このサイドチェンジに対応するために、守備側はブロックのスライドを繰り返さなければならず、完璧に90分間遂行し続けるのは非常に難易度が高いです。

 リバプール側のサイドチェンジのスピードも非常に早く、中盤やセンターバックを経由してのサイドチェンジだけではなく、精度の高い一発のパスによるサイドチェンジも頻繁に繰り出されます。このようなサイドチェンジが行われると、逆サイドでは攻撃側が数的有利に立つことが多く、一気にゴールを陥れることができます。

サイドチェンジを使ったリバプールの攻撃

クロップ・リバプールの守備戦術① 敵陣でのプレス

 ここからはクロップ・リバプールの守備時における戦術を見ていきます。まずは敵陣における守備からです。

 敵陣からの激しいプレッシングはクロップ監督の代名詞となっていますが、リバプールにおいても強力な武器になっています。ボールを失うとすぐさまゲーゲンプレスが発動し、周囲にいる選手たちは相手のボールホルダーに猛烈なプレッシャーをかけます。そして、後方にいる選手たちも近くの相手選手との距離を詰め、ボールが入ってくるとすぐさま潰しに行く準備をします。

 クロップのチームはこのボールロスト後のプレスが非常に激しく、またボールの奪い方が非常に巧みなため、相手にカウンターの芽を与えません。ボールを失ってもすぐにボールを回収し、自分たちの攻撃を継続させることができます。

 また、相手が一度ボールポゼッションを確立したとしても、クロップのチームは前線からの守備を仕掛けます。クロップ・リバプールで特徴的なのは、相手のパスを中央に誘導することですね。両ウィングが相手センターバックにプレスをかけますが、その際には相手サイドバックへのパスコースを制限します。相手からすると中央にパスコースを見出すことになりますが、そこにはボール奪取を狙うリバプール守備陣が待ち構えており、突破するのは非常に困難です。

 中央に入ってきたボールにとてつもない強度で守備を行い、ボール奪取をするのがリバプールの守備ですが、中央での強度を高めるために異常なハイラインを設定しているのも特徴です。ディフェンスラインを常に高く設定することで、前線からディフェンスラインまでの幅を極度に圧縮し、中央のスペースを消してしまいます。そうすることで、相手に与えるプレッシャーは増し、中央でのプレス強度を高めることが可能です。

クロップ・リバプール 敵陣でのプレス

 このハイライン戦術は、ディフェンスラインの裏に広大なスペースを残すリスクも抱えていますが、リバプールは上手く対応しています。まずはラインの統率が非常に上手いことで、オフサイドを量産しています。相手アタッカーからすると、リバプールのディフェンスラインが異常に高いことに適応することが難しく、裏を狙うタイミングを調整するのが難しいでしょう。

 加えて、リバプールのセンターバック陣とアリソンの存在があってこそのハイラインです。ファン・ダイク、マティプ、コナテは3人ともスピードがあって対陣が強く、オープンスペースでもきっちりと守備対応をすることができます。また、アリソンの1対1のセーブ能力が非常に高いことも大きなポイントでしょう。このハイライン戦術を用いることで、ゴールキーパーと1対1のシーンを作られることも多いですが、アリソンがことごとくセーブしています。

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クロップ・リバプールの守備戦術② 自陣での守備ブロック

  21-22シーズンのリバプールは、そもそも自陣で守備に回る時間が非常に少ないチームでした。常にボールを保持し、ボールを失った直後も強烈なゲーゲンプレスによる即時奪回が機能しており、自陣に押し込まれる時間は長くありませんでした。

 しかし、相手によって押し込まれる時間帯も存在します。その際には敵陣での守備時と同様の守備を自陣で行います。最終ラインは非常に高く維持し、中央の密度を高めて強度の高い守備でボール奪取を狙います。そしてロングカウンターで一気に相手ゴールを狙います。

 基本的にクロップのチームはブロックを構えて相手の攻撃を受け止める守備は行いません。常にアグレッシブにボールを奪いに行き、それを試合を通して続けられることが強みです。サイドからの攻撃に対しては、中央で厚みを作って跳ね返しますが、センターバックの壁が非常に高いです。21-22シーズンのリバプールは失点数も非常に少なく。完成されたチームでした。

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クロップ・リバプールの強みと弱み

 21-22シーズンのリバプールはクロップの下で更に成熟度を増し、上記で見てきたような戦術を実行してきました。最後にそんなリバプールというチームの強みと弱みを分析してみます。

 まず、クロップ・リバプールの強みですが、何といっても強度の高いハイテンポなサッカーを常に継続でき、多彩な攻撃パターンを兼ね備えていることでしょう。クロップのチームにおいてベースとなるのは、強度の高いプレッシングです。試合を通して高い強度を維持することで、試合の主導権を握り続けるます。21-22シーズンのリバプールは、圧倒的なハイラインと言う特徴もあり、中央の密度が高い状態を常に維持していました。

 その上で、どんな形でもゴールを奪えることがリバプールの強みでした。カウンターの破壊力はもちろんのこと、相手が自陣に引き籠っても多彩な手段を使って攻略してしまいます。サイドからのコンビネーションによる突破や、サイドチェンジから数的優位を作っての攻略、個人の力によるゴールなど、様々な形を兼ね備えていました。対戦相手からすると非常に的を絞りづらく、守るのが困難を極めたと思います。

 そして、21-22シーズンのクロップ・リバプールの弱みですが、完成されていたチームだけに弱点はほとんどなかったと言えるでしょう。しかし、シーズンの中でリバプールが苦戦したいくつかの試合では、ハイラインの裏のスペースを上手く活用されていました。特にリバプールのサイドバックは攻撃的なポジションを取ることが多く、その裏を戦術的に突かれていました。

 特にリーグ戦でのマンチェスター・シティとの2試合の前半やアウェイでのブレントフォード、CLでのアトレティコ・マドリー、インテルと言ったチームは非常に有効にリバプールのハイラインの裏のスペースを活用していました。

 リバプールの攻撃陣は、ボールを失った瞬間に強度の高いプレスを慣行しますが、上記のようなチームはそのファーストプレスをきちんと回避した上で、サイドの裏へパスを供給していました。リバプールの武器である強度の高いプレスを搔い潜り、オープンなスペースにボールを運ばれる展開は、リバプールにとっては嫌な展開だったでしょうか。しかし、シーズンの結果からも見て取れる通り、それほど大きな弱点にはならなかったと思います。

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まとめ

 21-22シーズンのクロップに率いられたリバプールは、クラブ史上最強に近いチームだったのではないでしょうか。成績としても4冠に肉薄しており、試合の内容を見ても非常に充実しています。70年代~80年代にかけて、リバプールは黄金期を謳歌していましたが、21-22シーズンのリバプールが最強と言う声も聞くほどです。過去のチームと単純に比較することはできませんが、21-22シーズンのリバプールの強さを物語っています。

 この強いチームを作り上げたのは、何といってもユルゲン・クロップの功績が大きいでしょう。15-16シーズンの途中にリバプールの監督に就任すると、着実にチームの成績を向上させてきました。その集大成が21-22シーズンのチームでしょう。

 しかし、クロップ・リバプールの旅は終わりを迎えたわけではありません。クロップが監督としてこれまで行ってきたように、今後もリバプールは戦術的なアップデートを繰り返していくでしょう。クロップ・リバプールが今後どのようなチームへと変貌していくのか、非常に大きな注目ポイントとなりそうです。