【アントニオ・コンテの戦術】コンテ監督率いるトッテナムの戦術とは

 アントニオ・コンテと言えば、現代サッカーを代表する名監督の一人です。3バックをベースに、コンパクトな守備と、縦に速い攻撃を武器として、数々の実績を残してきました。

 そんなコンテ監督ですが、現在はイングランドプレミアリーグに所属する、トッテナム・ホットスパーの指揮を執っています。21-22シーズンの途中に指揮官に就任すると、低迷していたチームは調子を取り戻しました。

 この記事では、アントニオ・コンテ率いるトッテナムの戦術について詳しく紹介していきます。

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アントニオ・コンテの経歴

 現在は名将としての評価を確立しているコンテですが、どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか。アントニオ・コンテの選手時代から、監督としての経歴を見ていきます。

 コンテは選手時代、ユベントスやイタリア代表でプレーしていました。選手としても一流で、長年トップレベルで活躍しています。ポジションは守備的ミッドフィルダーでした。ユベントスには10年以上在籍し、国内リーグを始めとしたタイトルを複数獲得しています。代表キャリアにおいても、ユーロとワールドカップで準優勝を経験するなど、トッププレイヤーとしてのキャリアを歩みました。

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 選手としてのキャリアを引退後は、イタリアの下部リーグで監督としてのキャリアをスタートさせます。コンテは監督キャリアの中で様々なチームを率い、結果を残してきました。コンテが監督として率いたチームと実績は以下の通りです。

チーム名所属リーグ期間主な実績
アレッツォセリエB2006-2007成績不振で辞任
バーリセリエB2007-2009セリエA昇格
アタランタセリエB2009-2010成績不振で辞任
シエナセリエB2010-2011セリエA昇格
ユベントスセリエA2011-2014セリエA3連覇
イタリア代表代表2014-2016ユーロベスト8
チェルシープレミアリーグ2016-2018プレミアリーグ、FA杯優勝
インテルセリエA2019-2021セリエA優勝
トッテナムプレミアリーグ2021-
アントニオ・コンテの監督キャリア

 セリエBで監督キャリアをスタートさせたコンテは、バーリとシエナでセリエA昇格を経験しています。一方で、アレッツォとアタランタでは成績が振るわずに辞任という結果でした。

 2度目のセリエA昇格となったシエナ時代のコンテは、4-2-4という超攻撃的なシステムを活用することで名を上げました。シエナでの実績で評価を高め、選手として長くプレーしたユベントスへと移っています。

 コンテが名将としての立ち位置を確立したのはユベントス時代です。当時のユベントスはカルチョポリによって降格を経験し、セリエAに復帰後もなかなか成績を残せずにいる状況でした。コンテはそんなユベントスをいきなりリーグ優勝に導きます。そして続く2シーズンもリーグを制覇し、3連覇を達成しました。ユベントス時代のコンテは、一貫して3バックを活用しており、イタリア国内では圧倒的な強さを発揮していました。

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 ユベントス退任後はイタリア代表の監督に就任しています。イタリア代表の監督としてはユーロベスト8という結果を残しています。当時のイタリア代表は決して評価の高いチームではありませんでした。そんな中で、コンテが率いたチームのゲーム内容は高く評価されています。イタリア代表においても得意の3バックシステムを活用し、ユーロではスペインを降してのベスト8となりました。

 イタリア代表退任後は、プレミアリーグに挑戦しています。チェルシーの監督に就任すると、最初のシーズンでいきなりプレミアリーグを制覇します。この時も3バックを導入し、プレミアリーグに3バックブームをもたらしました。翌シーズンはFA杯も獲得しています。

 そしてチェルシーを辞した後に就任したのがインテルです。インテルも長らく低迷していたクラブでしたが、コンテが復活に導きます。就任2シーズン目の20-21シーズンにセリエAを制覇しました。自身の3連覇から始まったユベントスの9連覇を阻止する形でスクデットを獲得しています。

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 そしてその後、再びコンテはプレミアリーグに戻ります。21-22シーズン途中にトッテナムの監督に就任しました。トッテナムもポチェッティーノとチャンピオンズリーグ決勝に進出した後は成績が振るいませんでした。数々のチームを復活させてきたコンテは、スパーズでどのような手腕を発揮するでしょうか。

21-22シーズン トッテナムの陣容

 トッテナムの監督に就任したコンテですが、トッテナムもメンバーには豊富なタレントを揃えたチームです。ここでは、21-22シーズンのトッテナムをのメンバーを見ていきます。21-22シーズンのコンテ・トッテナムの基本的なメンバーと配置は下記の通りです。

 コンテ就任以降は、コンテが得意とする3バックシステムを使用し続けています。様々な組み合わせを試しながらの選手起用となっていますが、上記のような布陣が多く見られるでしょうか。

 コンテのサッカーは、5バックで固く守り、縦に速い攻撃で一気に敵陣を攻略するという特徴があります。コンパクトで厚みのある守備ブロックを築き、サイドの幅を使って縦に速く攻撃します。シーズン途中の就任で、選手獲得に自身の意見をあまり反映できていない状況ですが、トッテナムには良い選手が揃っています。

 チームを率いるエースとしてハリー・ケインはコンスタントに活躍を続けていますし、ソン・フンミンとのホットラインは練度を増しています。また、21-22シーズンの冬の移籍市場でユベントスから獲得した、クルゼフスキとベンタンクールも定位置を確保し、確かなパフォーマンスを披露しています。今後は更に移籍市場でコンテのサッカーに合った選手も加わることでしょう。

コンテ・スパーズの戦術

 ここからは、アントニオ・コンテ率いるトッテナムの戦術を詳しく見ていきます。サッカーの局面の分解の方法はいくつかありますが、ここでは攻撃(ボール保持)と守備(ボール非保持)の2つに区分します。そして、攻撃と守備それぞれにおいて、ピッチの自陣におけるアクションか、相手陣内におけるアクションか、によってさらに分解します。

 上記の4つの局面について、コンテ・スパーズはどのような狙いを持ち、実際にチームとしてどのように振る舞っているのか、を考察します。

攻撃① 自陣からのビルドアップ

 まずは、ボールを保持して自陣からビルドアップを行う際のチームの振る舞い方について考察します。第一に、アントニオ・コンテのチームは、前方にスペースがあれば手数をかけずに攻撃することを目指します。

 自陣で相手からボールを奪うと、まずは前線の3トップを探します。ロングボールも積極的に活用し、裏のスペースを優先的に狙います。多少ラフなボールでもハリー・ケインは収めることができますし、スペースに流し込めばソン・フンミンやクルゼフスキが素早く反応します。自陣からロングカウンターを完結させることが、コンテのサッカーの第一の狙いになります。

 基本的には手数を少なく前進するコンテのスパーズですが、すぐに前進することが難しい局面では、ショートパスを繋いでのビルドアップに取り組みます。自陣でのビルドアップは、3バックに2ボランチがサポートし、5人でボール保持を安定させます。3バックが後方で幅を取り、その前で2枚のボランチが自由に動きながらサポートするビルドアップは、非常に安定感があります。

 後方で5人がボール保持に関わるとなると、相手のプレス陣に対して数的優位を確保し、ビルドアップのスタート地点を安定化させられます。そうして後方でのボール保持を安定させている間に、両ウィングバックが前方へと進出します。ウィングの2選手は内側にポジションを取り、5トップのような形になります。

 ウィングバックと前線の選手がポジション取りを終えると、後方でのビルドアップ舞台は前線にボールを届けるタイミングを伺います。ここでも第一の狙いは3トップへ配給し、一気に敵ゴールに迫ることです。そのため、3枚のセンターバックと2ボランチにはパス出しの能力が高い選手が起用されています。

 しかし、相手もしっかりと守備ブロックを作るため、簡単に縦パスを通せるわけではありません。3トップへのパスコースが封鎖されている際には、幅を取っているウィングバックを経由して、大外のレーンからボールを前進させます。幅を使って相手の陣形を揺さぶることで、中央に縦パスを入れるスペースができることも望めます。

コンテ・トッテナムのビルドアップ
・3バック+2ボランチでボールを回し、ポゼッションを安定化
・その間にウィングは内側に絞り、ウィングバックが大外の高い位置を取る
・タイミングを見て前線にボールを送り、一気にスピードアップしての攻撃を狙う
・中央突破が難しければ、大外のウィングバックを使って前進

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攻撃② 敵陣ファイナルサードの崩し

 続いて敵陣での攻撃の局面、ファイナルサードでの崩しについてです。守備ブロックからロングカウンターを得意とするコンテのトッテナムは、あまり敵陣に相手を押し込んでプレーする時間は長くありません。ボールを保持した攻撃においても、自陣でのパス回しから、一気の攻めでフィニッシュまで持ち込むことが多いです。

 自陣からのロングカウンターにおいては、3トップにボールが入ってしまうと、3人の連携でフィニッシュまで持って行くことも可能です。スペースがあって数的同数のような状況では、簡単にファイナルサードを攻略してしまう3トップです。時間がかかってスペースを消された際には、ウィングバックに大外のレーンをウィングバックに任せ、3トップは中央での連携による崩しを狙います。中央でも一度ボールが入ると脅威になり得る力を備えています。

 後方からのビルドアップによって前進し、相手陣内に侵入した際の攻撃でも、3トップと大外のウィングバックで相手ゴールを狙います。幅を確保したウィングバックを使って相手を揺さぶり、中央にボールを入れるタイミングを伺います。サイドや後方から中央の3トップにボールが入ると、そこから3トップの連携をベースに最終局面の崩しを狙います。

コンテ・トッテナムのファイナルサードの崩し
・ロングカウンターや自陣からの一気の攻めがメイン
・押し込んだ際には、大外のウィングバックを使って相手を揺さぶる
・中央の3トップにボールが入ると、連携でフィニッシュを狙う

守備① 敵陣での守備

 続いて守備の局面に目を移します。まずは、コンテ・トッテナムの相手陣内における守備時のアクションについて見ていきます。

 コンテのチームは、前線から激しくプレスをかけるようなチームではありません。自分たちがボールを失った瞬間には即時奪回を目指してプレスを仕掛けますが、相手のビルドアップが確立されると、ブロック守備に移行します。

 ウィングバックがディフェンスラインに下がり、ウィングが2列目まで下がって5-4-1のブロックを形成します。相手に対して圧力はかけつつ、ブロックの内側にボールが入ってきた際には激しく迎撃するのが基本です。ブロックの内側でボールを受けようとする相手を、マンツーマン気味にマークし、激しく迎え撃つちます。

コンテ・トッテナムの敵陣での守備
・ボールロスト後はすぐに切り替えてハイプレスを仕掛ける
・相手のポゼッション確立後は5-4-1のブロック守備に切り替え、緩やかに撤退
・ブロック内へ侵入するパスに対しては、ボランチやセンターバックが激しく迎撃

守備② 自陣でのブロック守備

 スパーズの自陣での守備は、前線での守備をそのまま自陣で行うイメージです。5-4-1のブロックを形成しての撤退守備を行い、侵入してくるボールに激しく迎撃します。敵陣での守備の段階からすでにブロックを形成しており、緩やかに撤退しながら相手を自陣に引き入れます。

 コンテのトッテナムは、強力な3トップによるオープンスペースでの早い攻撃を強みとしています。そのため、相手を自陣に引き入れることで攻撃するためのスペースを得ることができます。強固な守備から強力なロングカウンターを狙う、コンテらしい守り方と言えるでしょう。

 自陣で形成する5-4-1のブロックは非常に強固です。コンテはこれまで率いたチームで、守備力の高いチームを作りあげてきましたが、それはスパーズでも同様です。守備力の高いセンターバックを3枚配置することができる3バックシステムは、中央に入って来るボールへの迎撃能力を高めます。21年の夏に補強したロメロは、対人能力が非常に高く、強固なブロックの一角を担っています。また、ウィングバックが大外のエリアをカバーしているため、サイドからの攻撃にも対処することが可能です。

コンテ・トッテナムのブロック守備
・5-4-1のブロックを形成し、相手を自陣に引き入れる
・ブロック内に侵入するパスに対して激しく迎撃
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まとめ

 アントニオ・コンテが監督に就任し、トッテナムには明確なプレースタイルと強みが植え付けられたように思えます。5-4-1のコンパクトで堅固な守備ブロックと、自陣からのロングカウンターによって、コンテ就任後は成績も上向いています。

 しかし、コンテの監督就任もシーズン途中のことであり、まだまだ発展途上のチームです。ロングカウンターをベースとした攻撃は非常に破壊力がありますが、前線からのプレスで球出しを制限され、3トップが使うスペースを効果的に消されてしまうと、攻撃が停滞することもあります。チームとしての安定性には改善の余地があるでしょう。

 アントニオ・コンテはシーズン途中に就任したばかりで、今後は補強やプレシーズンを経て自らの色をよりチームに浸透させていくことでしょう。コンテはこれまでの実績からも、名将であることは間違いありません。トッテナムが今後どのようなチームに変化していくのか、非常に興味深いポイントです。