インザーギ・インテルの戦術分析 セリエAで首位を快走

 21-22シーズンのチャンピオンズリーグの決勝トーナメントの抽選が行われ、ベスト16の対戦カードが決定しました。今年はUEFAの抽選のミスにより、抽選がやり直しになるというハプニングもありました。

 ベスト16の対戦カードでは、リバプールとインテルの顔合わせが決まっています。グループDを2位で通過したインテルとグループBを全勝で駆け抜けたリバプールの対戦です。ベスト16のゲームが行われるのは2月~3月にかけてで、ファーストレグがサンシーロ、セカンドレグがアンフィールドでの開催となっています。

 この記事では、シモーネ・インザーギが監督に就任し、セリエAでも好調を維持しているインテルについて考察します。

21-22シーズンのインテル

 まずは今季のインテルのこれまでを振り返ります。セリエAは現時点で、折り返し点にあります。19試合を終えてウィンターブレークに入っており、その中でインテルは首位を走っています。勝点46を獲得し、リーグ戦7連勝中と非常に好調です。以下は、折り返し地点における、セリエAの順位表です。

 昨季、アントニオ・コンテの下で久しぶりのリーグ優勝を果たしたインテルですが、今季も好調を維持しています。コンテ監督や、ルカク、ハキミといった選手はチームを去りましたが、後任のシモーネ・インザーギが非常に良いチームを作り上げています。

 得点数でダントツのリーグトップと、破壊力に特徴を持つチームですが、失点数もナポリに次いで少なく、数字上も非常に強いチームのそれとなっています。現在のイタリアでは最も状態が良いチームでしょう。

試合分析① CLグループリーグ vsレアル・マドリー

 ここからは、具体的にインザーギ監督のインテルのサッカーを見て行きます。まずは、CLのグループリーグ最終節でレアル・マドリーのホーム、サンティアゴ・ベルナベウに乗り込んだ試合です。この試合の時点では、両チームのグループリーグ突破は決まっており、インテルが勝てばインテルが首位、引き分け以下ならマドリーが首位になるという、首位攻防戦でした。結果はマドリー2-0の勝利に終わっています。インテルは64分にニコラ・バレッラが退場となり、苦しい戦いを強いられました。以下、マドリー戦のインテルのメンバーです。

 インテルの基本フォーメーションは5-3-2です。基本的に攻撃的なスタイルをとるため、3-5-2の表記の方が良いかもしれません。レアル・マドリーは今季のヨーロッパで最も好調なチームの一つであり、アウェイということでインテルは慎重にゲームに入るかと予想していました。しかし、インザーギのチームは非常に積極的にボールを握りに行き、アグレッシブなサッカーを展開しました。ベルナベウでマドリー相手にポゼッションを握るチームであるとは、少々意外でもありました。

インザーギ・インテルの攻撃

 セリエAでトップの攻撃力を誇るインテルは、さすがの攻撃的でアグレッシブなサッカーを展開します。アウェイのマドリー戦と言えども自分たちでポゼッションを握る道を選択しました。攻撃の開始時は後方から丁寧にビルドアップを行います。3バックだと後方で確実に数的優位を確保できるので、ビルドアップは安定しますね。その上、アンカーのブロゾビッチはパス出しとゲームメイキングに優れた選手であり、インサイドハーフのチャルハノールとバレッラもボールを引き出して前進させることが得意な選手です。ペリシッチとダンフリースによって幅も確保されており、非常にバランスの取れたビルドアップでした。どうしても詰まった際にはジェコへのロングボールという逃げ道があるのも大きいです。

 安定した後方からのビルドアップで敵陣内に侵入すると、相手ゴールの攻略フェーズに入ります。ここでは個々の攻撃的なプレイヤーが威力を発揮します。高い位置をとるペリシッチのドリブルは脅威ですし、中央ではジェコが待ち構えます。また、ラウタロやバレッラはスペースへ入り込む嗅覚と、違いを生み出す技術を兼ね備えた選手です。インテルの攻撃陣には、相手ゴールの攻略フェーズで威力を発揮する選手が揃っていますね。

 そして、インテルの攻撃における最大の特徴はセンターバックにあります。攻撃的なインザーギのチームにおいては、センターバックも非常に積極的で、特にバストーニとダンブロージオの左右のセンターバックがウィングバックを追い越してオーバーラップするシーンが何度も見られました。攻撃に厚みを生み出し、局地的な数的優勢を作って相手の守備対応を困難にするためには効果的です。

 さらに、中央のセンターバックであるシュクリニアルも時には進撃するシーンも見られました。まさにチーム全体が前がかで、セリエAで得点が多いことも頷けます。センターバックが上がって行った際には、ブロゾビッチが後方のケアを行っており、チームのバランスを保っていました。

インザーギ・インテルの守備

 次に守備の局面に関してですが、ボールポゼッションを志す多くのチームと同様に、ボールを失った瞬間にはゲーゲンプレスを仕掛けます。ボールを失った瞬間に、周辺にいるインテルの選手が一斉に相手ボールホルダーに襲い掛かるプレスですね。しかし、一度広いスペースにボールを展開されると深追いはせず、ブロック守備に切り替えます。

 相手がビルドアップを行う際には、ドイツやイングランドのチームの様に、ハイプレスで襲い掛かることはしていませんでした。前からプレッシャーはかけるのですが、圧力をかける守備というイメージで、パスコースを消して相手の選択肢を制限する守備を行います。前線から相手ボールを狩り取りに行くような、激しいプレスとはまた違った守り方です。

 そして、レアル・マドリー戦でのインテルは、自陣で非常に堅固なブロックを敷く時間帯もありました。相手がレアル・マドリーでアウェイという環境がそうさせたこともあるでしょうか。自陣深くまで攻め込まれた際には、ウィングバックもしっかりと下がって5バックを形成します。ラウタロとジェコの2トップも相手のボランチを監視できる位置まで戻っており、この辺りの守備ブロックはさすがイタリアのチームでした。

試合分析② セリエA vsトリノ

 続いて、インテルにとって年内最後のリーグ戦となった試合、セリエA節のトリノ戦を考察します。リーグ戦で好調を維持するインテルは、このゲームも1-0で勝利し、リーグ戦7連勝を飾っています。

 この試合のインテルは、ホームで相手が順位表では下のチームということもあり、より積極的なサッカーを展開していました。3-5-2でボールポゼッションを志向することに変わりはありませんが、自陣でボールを保持している段階から両ウィングバックが非常に高い位置まで進出していました。ウィングバックの位置はレアル・マドリー戦よりも明らかに高く、攻撃的な態勢が見て取れます。高い位置でペリシッチがボールを持てば、常に相手の脅威になりますし、右のダンフリースも先制点を奪うなど、攻撃面で活躍を見せていました。しかし、自陣での守備に回るときにはしっかりと戻り、5バックを形成します。

 ボールポゼッションを行い、後ろから丁寧にビルドアップを行いたいインテルですが、この試合ではややビルドアップに苦戦していました。トリノはマンツーマンで、前線から激しくプレスをかけるチームということもあり、自陣でボールロストするシーンが何度か見られます。中盤の3選手がディフェンスラインからボールを引き出し、前進しようと試みますが、激しいマークに合い苦しみます。結果的に、後方からジェコやウィングバックの裏を狙ったロングボールが多くなっていました。

 インテルは後方から丁寧に繋ぐチームですが、激しいプレスにはやや苦戦している様です。相手の激しいマークを何とか外して中盤の選手がボールを引き出そうとするのですが、悪い体の向きでボールを受けてしまい、危険にさらされるシーンが何度かありました。ハイプレスへのビルドアップの対応はやや課題でしょうか。

 トリノのプレスに苦戦していたとは言え、ホームのインテルが相手陣内で攻撃を続ける時間は長いです。今季、セリエAトップの破壊力を誇るインテルの持ち味は、相手陣内での攻撃力にあるでしょう。ウィングバックがピッチの幅を確保して相手の守備を広げ、中央のスペースをインサイドハーフとラウタロが狙います。中央の攻撃的でテクニカルな選手たちのコンビネーションと、主にペリシッチのドリブル突破が武器でしょうか。

 また、レアル・マドリー戦でも何度も見られましたが、センターバックのオーバーラップは他チームではあまり見られない特徴です。シュクリニアルとバストーニは非常に前がかりで、時には最前線まで飛び出して行くプレーも見られました。攻撃の厚みを加え、相手の意表を突くという意味でも効果的な攻撃です。

 後半はトリノもゲーム支配への圧力を強め、自陣で守備に回る時間も長くなったインテル。ビルドアップもトリノのハイプレスに多く回収されていました。しかし、5バックで堅固なブロックを敷き、1点を守り抜くことで勝利を手にしました。勝ち方にしても非常にしたたかで、強いチームだったと思います。

CL リバプール戦の展望

 今季のインテルは昨季に引き続き、非常に良いチームです。今夏に就任したシモーネ・インザーギは、ルカクとハキミが抜けた中でも質の高いチームを維持しています。CLのベスト16ではリバプールと対戦しますが、どのような展開になるでしょうか。

 インテルとしては、自分たちのポゼッション重視の攻撃的なスタイルは崩さないでしょう。リバプール相手に多少5バックで耐える時間が長くなるにしても、自分たちのスタイルは崩さないと思います。後方からのビルドアップにも拘ると思いますが、リバプールのプレスをどこまで剥がせるかがポイントになるでしょうか。トリノ戦でも、ハイプレスをかけられるとインテルのビルドアップは不安定な側面を見せていました。欧州最高峰のハイプレスを誇るリバプール相手に、どこまで落ち着いてビルドアップができるか、もしくは割り切ってプレーするかでしょうか。

 そして、インテルのセンターバックによる攻撃参加も一つの見どころだと思います。インテルが自分たちのサッカーを目指せば、当然センターバックはアグレッシブなプレーをすることでしょう。センターバックが上がってボールを失った際、リバプールのカウンターをどのようにリカバリーできるかがポイントです。現在のインテルで変えの利かない選手であるブロゾビッチの働きが問われるでしょうか。

 現在のインテルはチームとして成熟しており、非常い強いチームです。死の組を全勝で駆け抜けたリバプールにしても、難しい相手となることでしょう。いきなりベスト16で好カード、非常に楽しみなゲームです。